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最高裁判所第三小法廷 昭和31年(さ)6号 判決 1956年11月27日

主文

原略式命令を破棄する。

本件公訴を棄却する。

理由

検事総長佐藤藤佐の非常上告趣意について。

関係記録を調査すると、被告人は、「法令に定められた運転の資格を持たないで昭和三〇年八月一〇日午後五時五〇分頃宇土郡宇土町松山附近道路に於て松橋市第七一号の原動機付自転車を運転して無謀な操縦をしたものである」との犯罪事実について、当初昭和三〇年一〇月二八日熊本区検察庁検察官から道路交通取締法違反の罪名をもって熊本簡易裁判所に対し、公訴提起と共に略式命令を請求され、同裁判所は同年一一月八日右公訴事実と同一の犯罪事実を認定し、道路交通取締法違反として被告人を罰金一五〇〇円に処する旨の略式命令をなし、この命令は同三一年一月一九日被告人に送達され、その後正式裁判の請求期間の経過により同年二月三日確定した。ところが右略式命令がなされた後その確定前である同三〇年一一月二八日右と同一の犯罪事実について前同検察庁検察官から前同法違反の罪名をもって、更に前同裁判所に対し、公訴提起と共に略式命令を請求され、同裁判所は同年一二月八日再び前と同一の犯罪事実を認定し、前同法違反として被告人を罰金一五〇〇円に処する旨の略式命令をなし、この命令は同年同月三〇日被告人に送達され、その後正式裁判の請求期間の経過により、当初の略式命令の確定たる同三一年一月一四日確定した事実を認めることができる。本件においては、当初の略式命令の送達が遅れたため後になされた略式命令が先きに送達され、先ず確定するに至ったのであるが、後の起訴(略式請求)を受けた熊本簡易裁判所はその公訴事実についてはすでに同一裁判所に起訴(略式請求)を受けているのであるから、後の起訴に対しては重ねて略式命令をなすことを得ず、本来刑訴三三八条三号に則り判決をもって公訴を棄却すべきであったのに、そのことなく更に本件略式命令をなしたため、同一犯罪事実について重ねて二個の略式命令がなされたものである。してみるとたとえ前叙のごとく後の起訴に対する本件略式命令が、前の起訴に対する略式命令より先きに確定するに至ったとしても、元来後の起訴に対してなされた本件原略式命令は、すでに公訴の提起があった事件につき更に同一裁判所に公訴が提起されたためになされた明らかに違法なものであるから本件非常上告は理由がある。

そこで刑訴四五八条一号により原略式命令を破棄し、同三三八条三号により本件公訴を棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。

右は裁判官全員一致の意見である。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

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